2007年1月7日日曜日

製品開発力と事業構想力

気が付けば、2007年になってしまいました。最近、何か一つのことを為すには、人生は短いと富に感じる、なんちゃって研究員のコンキチです。

さて、昨年の暮れに読んだ、「製品開発力と事業構想力」の中で面白い記事があったので、思うところをブログに書いてみようかと思います。
(最近、こういった経営学系の書籍が面白いと感じるようになり、ちょっとヤバいかもしれません。)

さて、本書はタイトルにある通り、イノベーションのお話で、全8章からなります。

コンテンツは↓

1) 新商品戦略:バリューチェーンの選択
→イノベーション・アプローチを
a) インテグレーター型:各ステップを自前で管理
b) オーケストレーター型:コラボレーション
c) ライセンサー型:ライセンスの売却・供与
と分類し、事業モデルとの相性について言及しています。研究開発が幅をきかせている企業の場合、自前主義(=nealy インテグレーター型)に偏りがちな気がしますが、スピードが要求される市場では、オーケストレーター型やライセンサー型のアプローチが重要になってくることを、事例を交えて詳述しています。読んでいて、P&GのC&Dやイノベーション・エコシステムとオーバーラップする印象を受けました。
で、さらにコンキチが思ったのは、「ライセンスの購入・許諾」という戦略ってもっと真剣に考えてもいいんじゃないかなあ?ということです。例えば、ダイソーRhodia社からの技術供与で、最も理想的な不斉合成技術の一つであると言われるHKR(Hydrolytic Kinetic Resokution)を企業化しています↓
http://www.daiso-co.com/rd/rd02.html
まあ、色々な条件面での折り合いというのがあるのだろうとは思いますが、ライセンスの売買ってもっと活発にあってもいいなと思ったなんちゃって研究員でした。

2) イノベーションの潜在価値を評価する法
→読んでいて、以前読んだ「ブルー・オーシャン戦略」に似ているなあと思っていたら、著者が同じでした(紹介されている事例も重複していますね)。この論文でも、「ブルー・オーシャン戦略」同様に、製品やサービスを構成するファクターに対する選択と集中、削減と増設をメリハリを効かせ他社との真の差別化を図り、かつ顧客とWin-Winの関係を築くことを重要視しています。
また、「代替産業に対する視点」や、「顧客セグメントのターゲッティッング」を再考することの重要性も説いていますね。競合するのは同業他社だけでなく、同質のヴァリューを提供する会社もそうであるということを認識し、既存顧客以外の層に焦点を当てることで新市場を見出すチャンスが広がるのです(多分)。
本書では、新技術や新サーヴィスの有意性を検証するのに、「消費サイクルにおける体験段階」と「ユーティリティ・レバー」からなるマトリックスを使っていますが、ブルー・オーシャン戦略で紹介されている「価値曲線(というマーケティングの力価をプロットした図)」の方が分かり易いかなと思いました。

3) イノベーション・ファクトリー: 知を創発する組織への転換
→ナレッジ・ブローカーの重要性を説いています。
(1) 優れたアイデアを捕まえる
(2) アイデアを死蔵しないで活用する。
(3) 古いアイデアの新しい使い方を考えだす。
(4) 有望なコンセプトをテストする。
というサイクルが重要なのだそうです。
特に印象深かったのは、
希代の天才が、「何もないところからアイデアを生み出す」というイメージはロマンがあって魅力的であるが、危険なフィクションである。イノベーションや創造性というものは、そのイメージほどミステリアスなものはない。すでに開発されたアイデアを取り入れ、それを新しい状況に適用しているにすぎない。
という一節で、言い得て妙なりと思いました。
特に、セクショナリズムが台頭している組織では、「知の共有」が妨げられるでしょうし、研究員が見出した何らかの知価を適切に蓄積・管理されていなければ知価の死蔵に歯止めはかからないでしょう。はっきり言ってコンキチの勤務する会社では、研究成果の共有っていうのがうまくいっておらず、昔やったことを、それに気付かずに同じことをやってしまうという現象がけっこう見受けられますね(まあ、分析技術の進歩とかもあるので、またそこから新たな知見が得られるかもしれませんが、過去のデータに気付いてないのはお粗末です)。あと、戦略的ジョブ・ローテーションっていうのはナレッジ・ブローカーを増やす意味で有効なのかなと思いました(あくまで戦略的というのが重要だと思いますね)。そうすれば、適切なジョブ・ミックスを持つ人材を造り出すことができるのではないかと思います。ただ、ナレッジ・ブローカーが動きやすいシステムをつくらなければならないでしょうが。

4) オープン・マーケット・イノベーション
→イノベーションやアイデアの貿易の効用を説いています。NIH(not-invented-here)症候群に対するアンチテーゼですね。C&Dや「新商品戦略:バリューチェーンの選択」とオーバーラップするところがあると思います。オープン・マーケット・イノベーションの適否を
(1) イノベーションの頻度(多ければ適す)
(2) イノベーションの経済効果(大きいと適さない)
(3) 蓄積的イノベーションの必要性(大きければ適する)
(4) 社内、業界内でのイノベーションの応用性(広ければ適する)
(5) 市場の不安定性(大きければ適する)
と解説しています。
ライセンス戦略というか、コラボレーションに係る技術情報の流出がどれほどあるかということを計量することってやった方がいいなと思いました。

5) 埋もれた技術の市場化戦略
→「イノベーションは企業秘密」という観念の否定。イノベーション・エージェント(イノベーションのヘッドハンター)の登場を謳っています。で、イノベーションの仲介者たるエージェントは、その機密保持能力こそが商売の源泉であるから企業秘密は担保されるのです。
こういう戦略は、やっぱり、競争や技術の陳腐化が早い業界で有効そうですよね。コンキチが身を置く化学業界って、どうなんでしょう?メチャメチャ技術革新が早いっていう訳ではないと思いますね(なんとなく)。新製品の開発っていっても、基本的に既存の(合成)技術の組み合わせになるわけだし。噂に聞いたことがあるCorey研のようなデータベースを作った方がいいんじゃないかと思いますね。

6) R&Dを顧客に転嫁する事業モデル
→この論文では、IFF(というデカイ世界的な香料会社)に合併されたBBAという会社の事例が紹介されていて、非常に興味を覚えました(一応コンキチは香料会社に勤務しているので)。で、この事例では、
a) 製品設計段階において満足いく製品(香料) を開発するにあたって、顧客企業とのやりとり(意思疎通=サンプルの微調整)が超煩雑になり、製品の開発速度が遅く、かつ製品開発リスクを全て担保しなければならない。
b) 上記課題を解決するために、製品開発(香料の開発)の一部を顧客に担ってもらう=Customers as Innovators
c) 香料の膨大なデータベースをインターネット上で顧客が利用することにより、ある程度の製品設計を顧客自身にやってもらう。サンンプルは顧客企業内に設置したFA機器(自動調合機)によって数分で作成される。微調整も迅速にできる。
d) フィードバックが、かなりの程度、顧客企業内で循環できるようになる。
e) 製品開発のスピードアップ、コスト削減、顧客を囲い込める(?)

この論文を読んで、純粋に感嘆しましたね。こういった発想の転換的アプローチって個人的にとても好感がもてます。でも、いろんな意味で勇気がいりそうな気がします。

7) 破壊的イノベーションを事業化させる法
→破壊的イノベーションをに取り組む際の企業の姿勢を説いています。

8) 成功の悪魔
→イノベーションのライフサイクル・モデルを提示し、ライフサイクルにおける各ステージ毎に、企業のとるべき戦略が提示されています。で、イノベーション・ライフサイクルにおける各ステージを時系列を追って↓のようにカテゴライズしています。
(1) 初期市場: 破壊的イノベーションが重要(っていうか新しいイノベーションの導入時期です)
(2) キャズム(谷間): 新技術がどっちつかずの状態に陥る
(3) ボウリング・レーン: ニッチ市場が新技術を採用。アプリケーション・イノベーション(既存技術を新規市場に導入して、新たな用途に対応する)が重要
(4) トルネード: 技術の有用性が実証される。製品イノベーション(既存市場で定番となった製品やサービスを次のレベルに引き上げる)が重要
(5) メインストリート(初期): ブームの鎮静化。市場は順調に成長し続ける。プロセス・イノベーションが重要
(6) メインストリート(成熟期): 市場成長が頭打ち。コモディティ化が進行。経験のイノベーション(顧客経験を改善する表面的改良)、マーケティング・イノベーション(顧客と接触するプロセスを改善)が大事。
(7) メインストリート(衰退期): 市場の動きが止まり始め、顧客は代用品を積極的に探し始める。ビジネスモデル・イノベーション(バリュー・プロポジション、バリューチェーンの再構成)、構造のイノベーション(業界内の関係性を再構築)が大事
(8) 断層および終末: 技術の陳腐化。次世代のトルネードの萌芽。

まあ、興味があったら本書を読んでみて下さい。

全体的に、以前読んだ「「ものづくり」の戦略モデル」や「ブルー・オーシャン戦略」とオーバーラップする部分が多くみられましたが、一研究員として興味深く読むことができました。

イノベーションというと、青色LEDであったり、ノーベル賞級の合成技術の開発であったり、アスパルテームみたいなメガヒット商品といった新規技術にばかり目がいきがちだと思うのですが、既存技術の他市場(他分野)への応用という戦略も立派なイノベーションだと思うわけです。

とりあえず、年頭に独りよがりの独白ができてちょっとすっきりしました。

今年は、「人生を謳歌する」ために自分の時間を有効活用していこうと思う二流大卒のなんちゃって研究員です。




Time is Cash


なのです。


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